【闇の章】
「無」が1000年の眠りについている間。
星々は腐り果て、滅びの一途を進んでいった。
生命は「無」に還ることなく、消滅していった。
消滅された生命はもうどんなことをしても戻ることは無い。
運よく1000年生き残った星々は「無」を信用することは出来なかった。
寧ろ「何故眠ったのだ」と怒り狂うものさえ出てきた。
それでも一人だけ「無」を信頼し、待っていたものがいた。
片方になってしまった「闇」である。
「闇」は他の星々に嫌われながらも「無」を待ち続けた。
待ち続けて、待ち続けて…。内にいる神獣に傷つけられても。
それ故に自分の能力が「覚醒」し、自分を止められなくなったとしても。
自分を創ってくれた「無」を愛し、恋し、待った。
* * * * * *
うーん…体が重い。
なんでだろ。やっとあの本を読めたのに。
体が重すぎて、どうすればいいのか分からなくて。
いい匂いがした。
ああ、なんだろ。この美味しそうな匂い…。
もう今にでも「僕を食べて!」と言ってくるような匂いは…。
ああ、もう。この欲望抑えきれない!
「…食べ…たい」
最後の力を振り絞って私は声を出した。
その時、口の中にお米が入ってくる感触がした。
もぐもぐと口を動かすと水分が多くてほんのりと温かく、尚且つ甘い。
ああ、なんて幸せなんだろうか。
否。もう幸せというものではない。
まるで、天国のような。そんな感じがした。
「美味しい…か?」
虚ろに見えていたその人が驚くほど早く、鮮明に写りだされていく。
その人は紛れも無く、知らない人だった。
黄金の穂を想像してしまいそうな長い金髪に青の瞳。
なんていうの?何かしら物語に出てくる「王子様」みたいな。
そんな雰囲気に似ていたけど、それよりももっと繊細で。まるで温かい風がずっと吹いているような。
「あ。目を覚ましたかい?」
ふと扉からひょこっと顔を出したイワン。
「イワン、何で此処に…。それにこの人は何?」
「ネネが1週間音沙汰無かったから不安でね。それで丁度この人たちが通りかかってくれて開けて貰ったんだ」
「カイルという。よろしく」
カイルという知らない人は、私にすっと手を差し出してきた。
それがカイルとの出会いになったわけで。