僕は彼女に誘われた。
それは、本当に珍しいこと。
…雨でも降るのかな。そう思ってしまうほど珍しいこと。
でも、だからといっても。
またもプロポーズは絶対的にできないだろう。
それは分かっている。でもいい。このままで。
「で。僕に何の用なんだい?」
「この文字を解読できそうな辞典ってある?」
そうして出してきたのは、不思議な本に不思議な文字。
しかも、その本、一行の不思議な文字以外は空白状態。
心から飛び出して、なんだこりゃ と本音が出そうだ。
「実はね…この本もらってから必死に辞典探したけれども、ないのよ」
あんなに大量に本を仕入れているというのにか。
ということはこの文字は、結構特殊か、
「この世の文字じゃない可能性があるか…か」
「やっぱり?」
「いや、違―」
「うーん、そうかもしれないし…でも何かあったような」
「というか、コレはまるで音符記号のようだなぁ」
「音符記号で文字なんてあるの?」
「ある。デーヴァナーガリーという音符のような文字。都市の文字とも呼ばれているし神聖なる文字とも呼ばれている。現代でもどこかの世界では結構使われているみたいだけど」
ふと考えてみれば、その辞典は今日買ったばかりだ。
それをさっと彼女に渡した。
「これ、良ければあげるよ」
「え!いいの?」
いいさ。これは彼女にプレゼントする予定であり、彼女にプロポーズする動機になると考えたのだから。
「ありがとー。私 頑張って、これ解読する!」
微笑んでいる彼女を見ると、もうどうでもよくなるのは何故なんだろうか…。
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